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麻婆豆腐のにおいで
思い出すのは
できもせんのに
重荷を背負ってみていた
青くて今より若いあたしが
夜遅く最寄り駅について
トボトボとあるきながら
空を見上げて
「がんばれ あたし」
と、唱えたとたん
予想に反して
泣けてきた
涙が
お疲れを訴えた
家の側の 小さな
いきつけの定食屋
ぼーっと
回鍋肉定食とビール
人が作ってくれるものが
食べられるって
ありがたい・・・
店の灯り
暖かなご飯…
回鍋肉定食と向き合うあたしに
店主がそっと
これ まかないだけど・・・ と、
照れくさそうに
そっと
厨房から
こそっと
出してくれた
麻婆豆腐
においとやさしさが
弱った あたしにしみて
辛さで 鼻をすすってることにして
ずっと ずっと
食べてる間も
食べ終わってからも
泣いてたな ずっと
たまに思い出す
麻婆豆腐のにおいをかぐと
女の煙草の煙を吸わされている
何も言いたいことはない
あたしは女になんの関心もない
でも でも
あいつが
あたしよりあの女のことが気になるんだってさ
あの女に惹かれちまってるんだ
どこがいいのか
あたしには・・・
わかりたくないけど
とりあえず
女の煙草の煙を吸わされながら
なんだか 取り持とうとしてるみたいな
あたんたれに成り下がってる
あたしは 馬鹿だ
泣きたいくらい 馬鹿だ
女の煙草の煙を吸わされている
あいつの笑顔が見たいが為に
君は長期出張
ちょっとの寂しさを紛らわせたくて
夜な夜なチャット三昧
コレだけがデート?
時間を忘れ 眠りも忘れ
しかし 首筋は知っていた
翌朝から
頭痛を通り越して
首筋が痛いよ
指で押さえながら
昨日のチャットを思い出す
ちんまりと 動けずに
うずくまるしか なかった
バスルームで
扉を開けようとしたんだ
でも、聞こえてきたのは
パパとママの聞いたこともないような
怖い声
パパ
ママ
ケンカしてるの?
こわくて
かなしくて
バスルームから出られないよ